「全国疫学調査」に対する弁護団コメント(詳細版)

2016年12月26日発表の『青少年における「疼痛又は運動障害を中心とする多様な症状』の受療状況に関する全国疫学調査』(全国疫学調査)結果報告に対する、HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団のコメント(詳細版)は、次のとおりです。

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全国疫学調査の結果報告(2016年12月26日)について

2016/12/30
HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団

はじめに

 2016年12月26日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会及び薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の合同会議(以下、「副反応検討部会」という)において、厚生労働科学研究「青少年における『疼痛又は運動障害を中心とする多様な症状』の受療状況に関する全国疫学調査」(研究代表者:祖父江友孝。以下、「本調査」という)の結果が報告された(副反応検討部会資料4。以下、「本報告」という)。
 本調査は、『HPVワクチンの副反応として報告されている症状と同様の症状があるが、HPVワクチンの接種歴がない患者』の全国患者数を推計することを目的に行われた。これは、HPVワクチン接種との因果関係を疫学的に研究するためには、副反応と同様の症状の自然発生率ないしその代替指標を得る必要があるという考えに基づき、「症状あり、HPVワクチン接種歴なし」の全国患者数の推計値をもって自然発生の代替指標としようとするものである。
 しかし、本調査は、そのデザインが不適切であるため、副反応症状と同様の症状の患者を的確に把握できるものとなっておらず、報告された推計患者数は明らかに過大である。本調査結果が接種勧奨再開の根拠とならないことはもちろんであるし、この推計患者数を自然発生の代替指標として今後の疫学研究の基礎データに使用することは許されない。
 また、本調査でみられた接種歴あり群と接種歴なし群の差は、副反応症状とHPVワクチンの因果関係を示唆すると言えるが、本報告はこれを無視し、両群に差がないかのような印象操作を行っており不当である。
 以下詳述する(より詳細な説明は、後記「解説編」参照のこと)。

※副反応検討部会資料4
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000147016.pdf

1 接種歴なしの女子に副反応症状と同様の症状が発生していることは確認できない

 本報告では、「結論」として、「HPVワクチン接種歴のない者においても、HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の『多様な症状』を呈する者が、一定数存在した。」とされている(20ページ下段)が、本調査の結果からそのような結論を導くことはできない。
 HPVワクチンの副反応として報告されている症状(以下、「副反応症状」という)は、疼痛、運動障害、自律神経障害、高次機能障害などの多臓器にわたる多彩な症状が1人の患者に重層的に現れることが特徴であることが指摘されている。副反応症状の疫学研究においては、この副反応症状をいかに定義し、他の疾患と区別するかが、困難かつ最重要の課題となる。
 しかし、本調査の「HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の『多様な症状』を呈する者」に該当するか否かの判定基準は、症状については、「以下の症状(疼痛及び感覚(光・音・におい)の障害、運動障害、自律神経症状、認知機能の障害)のうち少なくとも1つ以上ある」ことしか要求しておらず(1ページ下段)、またどのような症状が揃うことが必要かといった、症状の内容に関する基準は全く定められていない。つまり、研究対象である副反応症状の明確な定義が行われていない。
 これでは、副反応症状と同様の多彩な症状が発症しているかどうかを正しく判断することはできない。そのため、本報告が言うところの、「HPVワクチン接種後に生じたとされる症状と同様の『多様な症状』を呈する者」の中には、症状が1つしかない症例をはじめとして、実際には「多様」とは言えない症状の症例が含まれているし(19ページ上段「症状の数別にみた割合」参照)、たとえ症状の数は多くても、内容において副反応症状と「同様」と言えるかどうかは不明というほかない。
 したがって、本調査をもっては、接種歴のない女子に副反応症状と同様の多彩な症状を呈する患者が存在するということはできない。

2 本報告が示す、接種歴のない女子における副反応と同様の症状の発症率は、明らかに過大である

 仮に、HPVワクチン接種歴のない女子に副反応症状と同様の症状を呈する患者が存在するとしても、本報告のまとめで示されている、「接種歴のない人口10万人あたり20.4人」との推計値は明らかに過大である。
 1に述べたとおり、本調査における「多様な症状」の判定基準は不適切であり、「『多様な症状』を呈する者」の中には、実際には副反応症状と同様の多彩な症状が生じていない症例が含まれてしまうことになる。
 しかも、本報告では、「『多様な症状』を呈する者」の判定について「取り扱い①」と「取り扱い②」の2つの方法を示し、それぞれの推計値(①=2.8人、②=20.4人)を並列的に示している(11ページ及び13ページ)が、19ページの「まとめ」では、理由を全く示さないまま、取り扱い②による「人口10万人あたり20.4人」という推計値が結論であるかのように記載している。この取り扱い②によって、副反応症状と同様とは言えない症例がさらに多数含まれる結果となる。
 このような「『多様な症状』を呈する者」の判定結果が不適切であることは、個別症状の割合(17、18ページ)及び症状の数(19ページ上段)において、接種歴あり群と接種歴なし群に明確な差が認められることによって実証されている。すなわち、両群が「同様の症状」を呈しているとは言えないのである。
 以上より、「接種歴のない人口10万人あたり20.4人」という推計値が過大であることは明らかであり、これを今後の疫学研究の基礎データとして使用することは許されない。

3 接種歴あり群と接種歴なし群に見られる差は、副反応とHPVワクチンの因果関係を示唆するものというべき

 本報告によれば、「多様な症状」を有するとされた女子の個別症状の割合(17、18ページ)を見ると、接種歴あり群の方が接種歴なし群よりも各症状の有症率が全体的に高くなっている。そして、注目されるのは、光に対する過敏、脱力発作、月経異常、記銘力の低下など、副反応症状の研究者らが副反応患者に特徴的なものとして指摘している症状において、接種歴あり群の方が著しく高い有症率を示していることである。
 本報告は、バイアスの存在を理由に、接種歴あり群となし群との比較はできないとするが、上記のような副反応患者に特徴的な症状における著しい差が、バイアスがなければ生じなかった差であると言えるのか、非常に疑問である。
 この比較結果をもって因果関係についての結論を得ることはできないとしても、因果関係を示唆するデータであるというべきである。

 このように注目すべき比較結果が現れているにもかかわらず、本報告は、「まとめ」においてそのことに触れず、「全ての症状は『接種歴あり』と『接種歴なし』両群に存在し、一方の群だけに特異的な症状は存在しなかった。」と記載している(20ページ上段)。
 しかし、個々の症状をみれば、一方の群に特異的(一方の群だけに発生する)症状が存在しないのは当然のことであり、このような記載は、接種あり群となし群に見られた差を糊塗し、あたかも両群に差がなかったかのように思わせるための印象操作を目的としたものと見るほかない。
 このような姿勢は、研究者としてきわめて不誠実というべきである。

以上


【解説編】

1 接種歴なしの女子に副反応症状と同様の症状が発生していることは確認できない

 本報告では、「結論」として、「HPVワクチン接種歴のない者においても、HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の『多様な症状』を呈する者が、一定数存在した。」とされている(20ページ下段)。
 しかし、本調査の結果からそのような結論を導くことはできない。

 HPVワクチンの副反応として報告されている症状(以下、「副反応症状」という)は、疼痛、運動障害、自律神経障害、高次機能障害などの多臓器にわたる多彩な症状が1人の患者に重層的に現れることが特徴であることが指摘されている。
 しかし、一次調査における調査対象症例基準では、症状については、「以下の症状(疼痛及び感覚(光・音・におい)の障害、運動障害、自律神経症状、認知機能の障害)のうち少なくとも1つ以上ある」ことしか要求していない(1ページ下段)。

 そして、一次調査で調査対象症例とされた症例(以下、「調査対象症例」という)について、二次調査において、諸症状の発症状況、当該診療科が把握している傷病名、その傷病名で症状をおおよそ説明できるかどうかについて回答を求め(3ページ上段、7ページ下段)、その回答内容によって、「HPVワクチン接種後に生じたとされる症状と同様の多様な症状」に相当するか否か(つまり、副反応症状と同様の症状かどうか)を判断している。

 「HPVワクチン接種後に生じたとされる症状と同様の多様な症状」(以下、「多様な症状」という)に相当するか否かの判断基準は、8ページ上段の表に示されている。

 まず、調査対象症例で、把握されている傷病名で症状を「説明できない」と回答された症例は、「多様な症状」に相当するとされている。つまり症状の点について言えば、少なくとも1つの症状があり、それが傷病名で「説明できない」と主治医が判断したものであれば、副反応症状と同様の症状が生じている症例としてカウントされることになる。
 当初、なぜ傷病名で症状を説明できるかどうかが判断基準になる理由が分からなかったが、副反応検討部会における福島若葉参考人(分担研究者)の説明によれば、副反応症状を研究している医師らが、副反応症状を「既存の疾患概念では説明できない症状である」と評価していることから、既存の傷病名で説明できるかどうかを基準にしたとのことである。
 しかし、症状について「少なくとも1つ以上ある」ことしか要件とせず、どのような症状が揃うことが必要かといった症状内容に関する基準を定めないまま、それが既存の傷病名では「説明できない」と評価されているというだけで副反応症状と同様の多彩な症状が現れている症例であると判断するというのは、あまりにも飛躍がある。そのような基準では、実際に当該患者に発生している症状と、副反応症状との類似性を担保するものは何もないと言わざるを得ない。

 次に、主治医が把握している傷病名で症状を「説明できる」と回答したもののうち、傷病名に「HPVワクチン接種による」又は「HPVワクチン接種後」と明示されているものは、「多様な症状」に相当するとされる。これについては、接種歴なしの者が該当する可能性はない。
 また、症状を主治医が把握している傷病名で「説明できる」とされ、傷病名が「HPVワクチン接種後に生じた多様な症状とは明らかに区別できる疾患」である場合は、「多様な症状」に相当しないとされる。

 残る、最も問題のあるカテゴリーが、主治医が把握している傷病名で症状を「説明できる」と回答し、かつ、傷病名が「HPVワクチン接種後に生じた多様な症状とは明らかに区別できる疾患」に該当しない場合である。これについて、本調査では、2通りの取り扱いを示し、「取り扱い①」では「多様な症状」に相当しないとし、「取り扱い②」では「多様な症状」に相当するとする。
 つまり、取り扱い②の場合、このカテゴリーが副反応症状と同様の症状が生じている症例と見なされることになるが、この場合も、症状については、「少なくとも1つ以上ある」ことしか要件とされていない。したがって、やはり、当該患者に発生している症状と副反応症状との類似性を担保する基準となっていない。
 実際に、このカテゴリーに属するとされる患者の傷病名の一覧(9ページ下段別表3)を見ると、「頭痛、片頭痛、緊張性頭痛」(20人)、「過敏性腸症候群」(14人)をはじめとして、当該傷病名だけでは副反応症状と同様の多彩な症状が発症しているとは直ちに推定できない傷病名が並んでいる。

 それに、そもそも、真に既存の疾患として症状が説明できるものならば、それがたとえワクチン接種後に生じたとしてもまさに「紛れ込み」であり、ワクチンの副反応とは認められないものである。そのような症例を一律に「多様な症状」に相当すると判定するのは明らかに誤りである。

 以上の通り、本調査における「多様な症状」に相当するかどうかの判定基準はきわめて不適切であり、当該患者に副反応症状と同様の多彩な症状が発症しているかどうかを正しく判断できる基準となっていない。そのため、本報告が言うところの、「HPVワクチン接種後に生じたとされる症状と同様の『多様な症状』を呈する者」の中には、症状が1つしかない症例をはじめとして、実際には「多様」とは言えない症状の症例が含まれているし(19ページ上段「症状の数別にみた割合」参照)、たとえ症状の数は多くても、内容において副反応症状と「同様」と言えるかどうかは不明というほかない。

 したがって、本調査から、「HPVワクチン接種歴のない者においても、HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の『多様な症状』を呈する者が、一定数存在した。」という結論を導くことはできない。

2 本報告が示す、接種歴のない女子における副反応と同様の症状の発症率は、明らかに過大である

 仮に、HPVワクチン接種歴のない女子に副反応症状と同様の症状を呈する症例が存在するとしても、本報告のまとめで示されている、「接種歴のない人口10万人あたり20.4人」との推計値は明らかに過大である。

 1に述べたとおり、本調査における「多様な症状」の判定基準は不適切であり、「『多様な症状』を呈する者」の中には、実際には副反応症状と同様の多彩な症状が生じていない症例が含まれてしまうことになる。それは、取り扱い②をとった場合にさらに顕著となる。
 上記の「人口10万人あたり20.4人」という推計値は、取り扱い②による推計値である。本報告の11ページ及び13ページでは、取り扱い①及び取り扱い②による推計値を並列的に示していながら、なぜか19ページの「まとめ」では、取り扱い②による「人口10万人あたり20.4人」という推計値が下線付きの赤字で結論であるかのように記載され、取り扱い①による人口10万人あたり2.8人という推計値は、目立たないよう小さい字でかっこ書きで書かれている。しかし、本報告中に、取り扱い②による推計値を結論として採用する理由は一切書かれていないし、副反応検討部会において、祖父江参考人は、むしろ取り扱い①と②のどちらが正しいとは言えない旨述べていた。

 詳しくは後述するが、取り扱い②により「多様な症状」を有するとされた女子の個別症状の割合(17、18ページ)を見ると、接種歴あり群の方が接種歴なし群よりも各症状の有症率が全体的に高く、全41症状のうち26症状は、接種あり群の有症率が2倍以上となっている。また、症状の数別にみた割合(19ページ上段)でも、接種歴あり群では10以上の症状を有する割合が56パーセントであるのに対し、接種歴なし群では26パーセントに留まる。
 このように、接種歴あり群と接種歴なし群の症状の傾向は一致していない。このことは、接種歴あり群と接種歴なし群が「同様の症状」を呈しているとは言えないことを実証しているといえる。
 以上より、「接種歴のない人口10万人あたり20.4人」という推計値が過大であることは明らかであり、これを今後の疫学研究の基礎データとして使用することは許されない。

 なお、副反応症状(ないしその判定基準)を症状の面から明確に定義しないまま行われている本調査では、真に副反応症状と同様の多彩な症状の患者がどの程度発生しているかを推計することは、結局不可能というほかない。

3 接種歴あり群と接種歴なし群に見られる差は、副反応とHPVワクチンの因果関係を示唆するものというべき

 先にも触れたとおり、「多様な症状」を有するとされた女子の個別症状の割合(17、18ページ)を見ると、接種歴あり群の方が接種歴なし群よりも各症状の有症率が全体的に高くなっている。そして、注目されるのは、光に対する過敏、脱力発作、月経異常、記銘力の低下など、副反応症状の研究者らが副反応患者に特徴的なものとして指摘している症状において、接種歴あり群の方が著しく高い有症率を示していることである。

 本報告は、バイアスの存在を強調し、接種歴あり群となし群との比較はできないとする。
 しかし、上記のような、副反応患者に特徴的な症状における著しい差が、バイアスがなければ生じなかった差であると言えるのか、非常に疑問である。頭痛のようなありふれた症状(実際には、副反応患者の訴える頭痛は「ハンマーで殴られたような」などと形容される、激しく、特徴的なものだが、本調査ではその質の違いは反映されない)では両群に差が見られず、光に対する過敏や脱力発作などの一般にあまり見られない症状で著しい差が生じているのは、HPVワクチンと副反応症状に因果関係があるとすれば、自然で合理的な結果と言える。
 たしかに、本調査の研究デザインでは、この比較結果をもって因果関係についての結論を得ることはできないであろうが、因果関係を示唆するデータであるということができ、今後の研究を立案するにあたり参考にされるべきである。

 このように注目すべき比較結果が現れているにもかかわらず、本報告は、「まとめ」においてそのことに触れず、「全ての症状は『接種歴あり』と『接種歴なし』両群に存在し、一方の群だけに特異的な症状は存在しなかった。」と記載している(20ページ上段)。これもきわめて恣意的なまとめである。
 今回調査項目となっている各症状の一つ一つを見れば、ワクチン接種と関係なくみられる症状であるのは明らかであって、一方の群だけに特異的な(一方の群だけに発生する)症状が存在しないというのは調査をするまでもなく分かっていたことであり、あえてまとめとして記載する価値のないことである。それをあえて記載するのは、接種あり群となし群に見られた差を糊塗し、あたかも両群に差がなかったかのように思わせるための印象操作を目的としたものと見るほかない。

以上