HPVワクチンのリーフレット改訂案の重大な問題点

 2017年12月22日に開催された厚生労働省の副反応検討部会・安全対策調査会(以下、合同部会)において、HPVワクチンのリーフレットの修正案が提示されました。
 この改訂では、これまでの「子宮頸がん予防ワクチン」という呼称が「HPVワクチン」と改められています。このワクチンの子宮頸がん予防効果は証明されていませんので、呼び方を変えることは遅すぎたというべきですが、適切です。
 しかし、今回の改訂には、問題点が多数あります。

 全国原告団・弁護団では、合同部会を傍聴した後、厚生労働省内で記者会見を行い、この修正案には次のような重大な問題点が含まれていることを指摘しました。

 

 

【リーフレット改訂案の主な問題点】

  1. 記憶障害・学習障害等の症状が削除されており、多様な副反応症状の説明が不適切である。
  2. 接種から1ヶ月以上経過してから発症した症状は因果関係を疑う根拠に乏しいという誤った情報が追記された。
  3. 不適切な祖父江班調査の結果がそのまま引用されている。
  4. 有効性について不適切な推計による過大な「期待」が記載されている。

 この改訂案は、国民にこのワクチンの危険性を正しく伝えておらず、現に重篤な副反応被害に苦しむ患者を切り捨てる内容となっているばかりではなく、国民に新たな誤認を生じさせるものであることは明らかです。

 このような改訂が行われることは許されません。

 以下、詳しく説明します。

 

■問題点1 記憶障害・学習障害等の症状が削除されており、多様な副反応症状の説明が不適切。

 現行版では、少なくとも医療従事者向けのリーフレットには、HPVワクチン接種後に認められる「広範な疼痛又は運動障害を中心とする多様な症状」の説明として、「失神、頭痛、腹痛、発汗、睡眠障害、月経不整、学習意欲の低下、計算障害、記憶障害等」が挙げられていました。
 しかし、改訂案ではこれが削除され、被接種者・保護者向けリーフレット、そして医療従事者向けリーフレットのどこにも、記憶障害や学習障害といった症状は記載されていません。
 これらの症状には多くの被害者が苦しんでおり、研究論文においても、HPVワクチンの副反応として指摘されています。
 これらの症状を削ったのは、合同部会による「接種の痛みと痛みに対する恐怖心が惹起する心身の反応」(機能性身体症状)という理解では、記憶障害や学習障害等を説明できないためと思われますが、現に生じているこうした症状を説明しないままでは、国民への正しい情報提供とは到底言えません。かかる改訂は全く不適切です。

 

■問題点2 「副反応は1ヶ月以内に生じる」という誤解の流布。

 接種から1ヶ月以上経過してから発症した症状は因果関係を疑う根拠に乏しいとするのは、科学的根拠の乏しい見解です。従来のワクチンの副反応がおおむね接種から1ヶ月程度の間に発生してきたというだけのことであって、HPVワクチン接種後の副反応には当てはまりません。実際には、多くの被害者が接種から1ヶ月以上たってから重篤な副反応を発症しており、多くの研究論文もこうした特徴が指摘されています。
 「1ヶ月以上経過後の症状は因果関係を疑う根拠に乏しい」という誤った情報が流布されてしまうと、現に被害に苦しんでいる原告らを詐病扱いする医師や医療機関が増大するおそれがあるばかりでなく、HPVワクチンによる重篤な副反応の被害者として補償制度の対象とされるべき患者が、被害を認識できないまま社会で放置される結果を招くことにもつながりますので、極めて不当です。

 

■問題点3 不適切な祖父江班調査の結果がそのまま引用されている。

 今回の改訂案には「HPVワクチン接種歴のない方においても、HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の『多様な症状』を有する方が一定数存在したこと、が明らかとなっています」という記述が追加されています。
 これは「祖父江班調査」に基づくものですが、この調査で非接種者に認められたとされているのは、HPVワクチンの副反応と「同様の」症状などではありません。

 研究班代表の祖父江氏自身が、この調査には多数のバイアスがあるとし、接種歴がないのに「多様な症状」を有するとされた患者の症状と、HPVワクチン接種後に認められた副反応症状との同質性は、この調査では分からない旨を合同部会で説明しています。
 そのような調査結果をリーフレットにあえて記載することは不適切であり、HPVワクチンの副作用についての誤解を助長することは明らかです。

 ゆえに、この記述は削除されるべきです。

 

■問題点4 有効性について不適切な推計による過大な「期待」が記載されている。

 今回の改訂案には、HPVワクチンによる子宮頸がん予防効果に関する推計として、10万人あたり859~595人が子宮頸がんになることを回避でき、10万人あたり209~144人が子宮頸がんによる死亡を回避できると記載されています。
 この推計は、(1)前がん病変(CIN2)の減少効果は癌そのものの予防効果と同視できる、(2)ワクチンの接種効果が生涯続く、という2つの非常に問題のある仮定を重ねた上でのものです。
 感染したHPV(ヒトパピローマウイルス)の9割は2年以内に消失し、CIN1に進んでも、若い女性では、その9割が3年で消失します。残る1割がCIN2に進展しても、その後10年以内にがんに至る確率は1.2%です。そのようなCIN2の減少効果を子宮頸がんの減少と同視し、臨床試験では最長9年しか効果の持続が証明されていないのに、その効果が生涯続くという仮定で計算をしているのです。
 このような実証性の乏しい「期待」をリーフレットに記載することは有害です。

 

改訂案に対する原告らの声

 こうした改訂案に対し、合同部会を傍聴した原告らは
 「自分の存在自体が無視されている」
 「私たちの症状がここに説明されているとは思えない」
 「国が被害者に寄り添っているとはとても感じられない」
 「私たちが元の体に戻るように考えてくれているとは思えない」
といった感想を持ったことを、会見で率直に語りました。

 全国原告団・弁護団は、こうした誤ったリーフレットの改訂が行われないよう、関係者に対して引き続き働きかけを行う予定です。

 こうした問題点に関する正確な情報が広く発信されることによって、この問題に対する社会の理解が深まることを期待したいと思います。