意見陳述 ~被告国の研究班が明らかにした被害実態:2023/2/20 名古屋地裁口頭弁論

 2023年2月20日に名古屋地方裁判所大法廷で開かれた第15回口頭弁論で、弁護団の柄沢弁護士より、厚生労働科学研究「HPVワクチンの安全性に関する研究」に基づいた意見陳述を行いました。

 意見陳述の内容(全文とスライド)をご紹介します。


 昨年12月に約3年振りに開かれたこの裁判の前回口頭弁論では、原告14番の女性が、自らの被害の実情について意見陳述を行いました。

 彼女は、中学生のときに被告GSKが製造するHPVワクチンであるサーバリックスを3回接種した後に、経験したことのない強い生理痛や左腕の痛み、しびれといった症状を感じるようになりました。高校に進学する頃には、教室の場所を覚えられないというような記憶力の異常も加わるようになり、強い倦怠感のため、登校できた日でも、ベッドに横になって授業を受けるといった状態でした。

 こうした症状に耐えながら何とか医療関係の大学に進学した後も、足の脱力で転倒するため、装具が必要となりました。中学生のころから様々な病名が疑われましたが、診断はつかず、病歴や脳血流の画像検査の結果などから、HPVワクチンに関連して免疫の異常が生じているのではと指摘され、免疫を抑えるための治療を受けるようになりました。しかし、効果は数か月程度しか続かないため、今も遠隔地の大学病院での定期的な治療を必要としています。

 大きな苦労を重ねながら大学を卒業し、臨床現場での仕事に就職したものの、異常な倦怠感に襲われながら、休める時間はすべて休養にあて、いつ今の仕事を続けられなくなるのではとの不安に怯えながら、すがるような思いで1日1日働いている、そのような現実をこの法廷で説明しました。

  このように、HPVワクチン接種後に、原告14番と同様の被害に苦しむ女性たちの実態は、被告国の設置した研究班が実施した調査によっても既に詳細に把握されています。

 今回、原告らは、厚生労働科学研究として行われた「HPVワクチンの安全性に関する研究」の報告内容を準備書面で取り上げました。この研究は、川崎市健康安全研究所長の岡部信彦氏を代表者とする国の研究班(岡部班)が、HPVワクチン接種後に有害事象を生じた患者を対象として、長期的な症状経過や予後、さらには日常生活における不具合などを調べたものです。

 平成30年度より実施された調査結果は、一昨年2月に総括研究報告書としてとりまとめられており、昨年3月からは、国が設置するデータベースを通じて公開 されています。

 以下では、この研究を「岡部班調査」といいます。

 岡部班調査は、国内でHPVワクチン接種後に健康上の不具合を生じたことがあり、かつ、患者やその親権者から研究参加の同意を得られた者を対象としたWebアンケート方式で実施されました。回答が得られた41名はいずれも調査実施時点で20代となっており、また、HPVワクチンの接種時期は、緊急促進事業が開始された翌年の2011年に接種した者が最多でした。

 こうした年齢層や接種時期は、この裁判の原告らと共通しています。

  岡部班調査の結果において最も注目されるのは、回答者のすべてが、HPVワクチン接種後に複数の多様な症状を呈していたという点です。

 このスライドで引用したグラフは、HPVワクチン接種後に出現した症状について、感覚系、自律神経系、運動系、認知機能系の各領域の上位4項目を示したものですが、各領域の症状を有する割合はいずれも90%を超えていたことが報告されています。

 前回意見陳述を行った原告14番の症状も、左腕の激痛、異常な倦怠感、足の脱力、記憶力の異常等、ここに挙げられた4つの領域に広くまたがるものでした。原告14番をはじめとするこの裁判の原告らの症状に基づいて私たちが主張してきたように、HPVワクチン接種後の重篤な副反応の症状には、感覚・自律神経・運動・認知といった幅広い領域にわたる症状が重層化するという共通性がみられることが、国の研究班の調査によっても同様に明らかにされているのです。

  症状出現までの期間については、回答者の約半数が接種後3か月以上となっており、接種後6か月以上経って初発症状が見られた者も、約34%にのぼっています。

 このように、HPVワクチン接種から遅発性に症状が発症することが少なくないという点も、原告らに見られる症状の発現様式と合致しています。

  岡部班調査では、こうした症状に対して、起立性調節障害、ADEM、慢性複合性局所疼痛症候群(CRPS)、線維筋痛症、慢性疲労症候群といった、自己免疫性疾患に分類される診断名を付けられた患者が多数にのぼることも判明しています。こうした点も、原告らが主張してきたとおり、HPVワクチン接種後に生じた症状が免疫介在性の神経障害であることを示すものと言えます。

 そして、幅広い領域に多彩な症状を呈するという共通性をもつ患者らに対して、臨床現場で様々な診断名が付けられてきたという事実は、個々の診断名にのみ着目して疫学調査を行ったとしても、HPVワクチン接種後の被害の全体像を拾い上げることが困難であることを示しています。これは、これまでに知られた特定の疾患の発生率に焦点を当てた疫学調査ではHPVワクチンの安全性を評価することができないと原告らが主張してきたことを裏付けるものです。

  岡部班調査では治療の実施状況も調べられています。その結果をみると、実施された治療のうち「最も効果があったと感じた治療」の筆頭は免疫抑制剤であり、3番目には血液浄化療法、すなわち免疫吸着療法が挙げられています。

 これらはいずれも、従来から免疫が関連する疾患に対して行われてきたものであり、免疫学的治療と呼ばれています。こうした治療の効果が実感されているという事実も、原告らの病態が、免疫介在性の神経障害であることを裏付けるものと言えます。

  岡部班は、調査対象となった患者の日常生活への影響などについても調査を行っていますが、回答者の実に98%が、1ヶ月に21日以上、すなわちほとんど毎日のように日常生活に支障が生じていると回答しています。

  自由記載による回答では、せっかく受診した医療機関で真摯に向き合ってもらえず、治療費の負担も重なっていたり、就業先・就労先での副反応に関する理解が浸透していないといった声が寄せられており、回答者全員が、生活上の各場面における社会的支援が必要であるとも回答しています。

 接種から10年以上が経過した現在においても、今なお深刻な被害が続いていることが、国の研究班の調査結果によっても明らかとされているのです。

  このように、厚生労働科学研究である岡部班調査の結果からも、HPVワクチン接種後に重篤な免疫介在性の神経障害を呈すること、そして、本訴訟の原告らを含む副反応被害者に対する速やかな被害救済と治療方法の確立が必要であることが示されています。

 国の研究班がこうした実態を明らかとしているにも関わらず、被告企業らは、被害者らの重篤な症状との因果関係を否定し、被告国もまた、被害者に対する必要な支援策を講じておらず、被害救済や社会的支援を求める被害者らの声は、なお置き去りにされたままです。

 岡部班調査の結果でも明らかとなった、今なお続く日々の深刻な被害を速やかに回復するためにも、そして、これ以上新たな被害を拡大させないためにも、この訴訟において被告らの法的責任が明らかにされなければなりません。