「全国疫学調査」追加分析結果に対する弁護団コメント

2017年4月10日公表の「青少年における『疼痛又は運動障害を中心とする多様な症状』の受療状況に関する全国疫学調査」(全国疫学調査)の追加分析結果報告に対する、HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団のコメントは、次のとおりです。

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全国疫学調査追加分析結果について

2017年4月24日
HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団

はじめに

 2017年4月10日、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会及び薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の合同会議(以下、「副反応検討部会」という)が開催され、厚生労働科学研究「青少年における『疼痛又は運動障害を中心とする多様な症状』の受療状況に関する全国疫学調査」(研究代表者:祖父江友孝。以下、「本調査」という)の追加分析結果が報告された(副反応検討部会資料4。以下、「追加分析」という)。
 その「結論」は、2016年12月26日に報告された本調査の結果報告(以下、「初回結果報告」という)と同じく、「HPVワクチン接種歴のない者においても、HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の『多様な症状』を呈する者が、一定数存在した」というものであるが、追加分析を含め、本調査には、このような結論を導く科学的根拠は全くなく、結論は誤りである。

1 本調査初回結果報告の問題点

 当弁護団は、初回結果報告に対して、2016年12月30日、その問題点を指摘した弁護団コメントhttps://www.hpv-yakugai.net/2016/12/30/ekigaku-comment/)を公表した。
 その要点は以下のとおりである。

① 接種歴なしの女子に副反応症状と同様の症状が発生していることは確認できない

 調査対象症例基準で「少なくとも1つ以上」の症状があることしか要求せず、また症状の内容に関する基準は全く定められていない。つまり、研究対象である副反応症状の明確な定義が行われていない。
 そのため、本報告が言う「HPVワクチン接種後に生じたとされる症状と同様の『多様な症状』を呈する者」の中には、症状が1つしかない症例をはじめ実際には「多様な症状」とは言えない症例が含まれており、またたとえ症状の数は多くても、内容において副反応症状と「同様」と言えない。

② 本報告が示す、接種歴のない女子における副反応と同様の症状の発症率は、明らかに過大である

 本調査における「多様な症状」の判定基準は不適切であるため、実際には副反応症状と同様の多彩な症状が生じていない症例が含まれる。
 また、「『多様な症状』を呈する者」の判定を2つの方法で行い、より大きな推計値が得られた「取り扱い②」による推計値を結論であるかのように記載しているが、「取り扱い②」をより正しい推計値とする理由を全く示していない。

③ 接種歴あり群と接種歴なし群に見られる差は、副反応とHPVワクチンの因果関係を示唆するものというべき

 「多様な症状」を有するとされた女子の個別症状の割合を見ると、接種歴あり群の方が接種歴なし群よりも各症状の有症率が全体的に高く、特に、光に対する過敏、脱力発作、月経異常、記銘力の低下など、副反応患者に特徴的な症状において接種歴あり群の方が著しく高い有症率を示している。
 これはHPVワクチンと副反応症状の因果関係を示唆するものというべきである。

2 追加分析でも問題点は解消されていない

 当弁護団は、上記弁護団コメントをふまえて、2017年1月23日、原告団と連名の要望書https://www.hpv-yakugai.net/2017/01/23/ekigaku/)を厚生労働大臣、桃井眞里子副反応検討部会長、及び五十嵐隆安全対策調査会長に対して提出し、弁護団コメントに指摘した本調査の問題点その他本調査に対する批判的意見をふまえて再度本調査について審議し、本調査の結論の妥当性について十分な検討を行うことを求めていた。
 しかし、追加分析及びこれについての副反応検討部会の審議では、弁護団コメントに指摘した問題点をふまえた本報告の批判的検討はなされなかった。
 したがって、弁護団コメントに指摘した問題点は、全く解消されていない。

3 症状数10以上でも、副反応症状と同様の症状とはいえない

(1) 症状の数を10以上に限った分析結果

 追加分析の中で、唯一弁護団コメントを意識したと思われるのは、症状の数ごとにみた期間有訴率の分析であり、「小括」において、「症状の数を10以上に限っても、『A群:接種歴なし』の有訴率は、10万人当たり5.3人で、ゼロではなかった」とした部分である。

(2) 副反応症状を定義しなければ、それと「同様」の症状と判断できない

 しかし、たとえ症状の数が多くても、内容において副反応症状と同様といえないことは、弁護団コメントで指摘したとおりである。
 副反応症状と同様の症状の存在を確認するためには、まず、副反応症状を分析したうえで、どのような症状がどのように現れている場合に副反応症状と判断するかという定義付けをすることが不可欠である。本調査の致命的な欠陥は、この定義付けがなされていないことである。
 例えば、副反応症状の研究者によって提唱されているHANS予備診断基準は、異なる系統の症状が1人の患者に現れる、まさに「多様」な症状を呈するHPVワクチン副反応症状の特徴を捉えることを意図して作られている。これと対比すれば、本調査における「HPVワクチン接種後に報告されている症状と同様の『多様な症状』」の判定基準の杜撰さは明らかである。本調査において、必ずしもHANSの診断基準を採用する必要はないとしても、副反応症状の特徴を捉えて、これとは異なる症状と区別できる何らかの基準を定めることは必須である。

横田ら:日本医事新報No.4758 p48より
横田ら:日本医事新報No.4758 p48より

(3) 都合の良い数値だけ示し、不都合な数値は隠蔽

 しかも、追加分析報告が示した「10万人当たり5.3人」という推計値は、弁護団コメントの上記②においてその不当性を指摘した、「取り扱い②」による推計値である。そして、初回報告では併記されていた「取り扱い①」による推計値は、追加分析報告では記載されていない。
 症状の数で限定しない初回報告でも、取り扱い②での10万人当たり20.4人に対し、取り扱い①では同2.8人と大きな差があったことからすると、症状の数で限定した場合の取り扱い①による推計値はきわめて小さな値であったと推測される。これを記載しないのは、意図した結論を導くに支障となるデータを隠蔽する、きわめて恣意的で不公正な分析である。

4 副反応症状を調査せず非接種者を詳細調査するのは本末転倒

 報道によれば、副反応検討部会では、今後、非接種者の具体的な症状について調査するとされている。
 しかし、副反応症状を定義していないという本調査の欠陥は、そもそも国が副反応症状について十分な調査・分析を行ってこなかったことに起因する。そのような段階で非接種者の症状の調査を進めるのは本末転倒である。
 国は、これまで、被害者らが要求してきた接種者全員の追跡調査を行わず、限られた件数しか把握できない自発報告(副反応報告)に基づくきわめて不十分な調査しか行っていない。まずは、副反応の発生状況とその症状についての徹底した調査を行うべきである。

5 一般傍聴をしづらくするため開催案内のHP掲載を遅らせた厚労省

 ところで、今回、4月10日月曜日開催の副反応検討部会の開催案内が厚生労働省のホームページに掲載されたのは、同月7日金曜日の夕刻以降であり、弁護団が知ったのは午後7時過ぎである。傍聴申込は開催当日である10日月曜日午前9時必着とされている。日付だけで見れば案内掲載から3日後の開催だが、営業日・営業時間単位で考えれば申込期間はほぼ無いに等しいという、常識では考えられないスケジュールである。これは一般の傍聴を困難にするもので、会議を公開とする趣旨に著しく反する。例えば被害者の保護者の会社員が金曜夜に開催を知っても、翌週月曜に休暇を取って傍聴するのはほぼ不可能である。
 しかも、このようなやり方は、今回が初めてではない。本調査の初回結果報告がなされた2016年12月26日(月)開催の副反応検討部会も、開催案内は金曜日に掲載され、傍聴申込の締切は休日である同月25日日曜日午前9時とされていた。
 一方、今回の副反応検討部会と同じく2017年4月7日(金)に開催案内が厚生労働省ホームページに掲載された他の4件の審議会等は、1件(※1)が4月21日(金)開催、3件(※2)は4月12日(水)開催であり、副反応検討部会におけるやり方が厚生労働省の通常のやり方とは異なることが分かる。
 厚労省は、HPVワクチン、あるいは全国疫学調査の審議にかかる副反応検討部会の一般傍聴を困難にしようという意図を持って、開催案内のホームページへの掲載時期を遅らせているとしか思えない。
 厚生労働省は、今後このような姑息な手段を用いることなく、十分な傍聴申込期間が確保されるように開催案内を掲載することを求める。

(※1)薬事・食品衛生審議会 医療機器・体外診断薬部会
(※2)中央社会保険医療協議会厚生科学審議会第1回遺伝子治療等臨床研究に関する指針の見直しに関する専門委員会第182回労働政策審議会雇用均等分科会