HPVワクチンに関する要請書 積極的勧奨の中止から8年経つ今行うべきこと

 2021年6月14日にHPVワクチン接種の積極的勧奨の中止から8年が経過することを受け、HPVワクチン薬害訴訟全国原告団・弁護団は、本日、厚生労働大臣宛てに要請書を提出しました。

 勧奨中止から8年を経過してもなお、被害の実情は何も変わっていないことを多くの方に知っていただけることを願っています。どうかご支援下さい。


 

2021(令和3)年6月10日

 

厚生労働大臣 田村 憲久 殿

 

HPVワクチンに関する要請書

 

-積極的勧奨の中止から8年経つ今行うべきこと-

 

HPVワクチン薬害訴訟全国原告団

 

代表  酒井 七海

 

HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団

 

共同代表  水口真寿美

 

   山西 美明

 

<連絡先> 東京都千代田区二番町12番地13 セブネスビル3階

 

樫の木総合法律事務所内   電話03(6268)9550

 

https://www.hpv-yakugai.net/

 

 

 

<要請の趣旨>

 

 

1 HPVワクチンの積極的勧奨を再開しないでください。

 

 

2 HPVワクチンの副反応被害者に対して、十分な被害救済給付や就労を含めた生活支援を行ってください。

 

 

3 HPVワクチンの副反応症状を治癒させる治療法の確立に向けた研究を促進してください。

 

 

 

<要請の理由>

 

 

1 HPVワクチン副反応被害者が置かれている過酷な状況

 

 

(1) HPVワクチンは、販売開始から1年後という異例の早さで国家的な緊急促進事業による接種が開始され、2013(平成25)年4月には予防接種法の定期接種となりました。しかし、副反応問題を受けて、わずか2か月後の6月14日に積極的勧奨が中止となり、それから8年が経過します。

 

 

(2) 積極的勧奨の中止の理由となったHPVワクチンの副反応は、頭痛、全身の疼痛、感覚障害(光過敏、音過敏、嗅覚障害)、激しい生理痛、脱力、筋力低下、不随意運動、歩行障害、重度の倦怠感、集中力低下、学習障害、記憶障害、発熱、月経異常、過呼吸、睡眠障害など、全身に及ぶ多様な症状が一人の患者に重層的にあらわれるという非常に重篤なものです(別紙1)。

 

HPVワクチンの副反応の重篤性や高い危険性は、副作用被害救済の認定頻度からも明らかです。後記のようにHPVワクチンの被害救済はきわめて不十分ですが、それでも、障害(日常生活が著しく制限される程度の障害)の認定頻度は、主な定期接種ワクチンと比べて20倍以上と著しく高くなっています(別紙2)。

 

 

(3) 副反応の治療法は確立しておらず、被害者は現在も重い症状に苦しんでいます。HPVワクチンの副反応に対して専門的な治療を行っている医療機関は全国でもわずかです。そうした遠い医療機関への入通院は患者に重い負担となっており、そもそも適切な治療を受けられない被害者も少なくありません。

 

厚労省は、各都道府県に協力医療機関を設置したと公表していますが、協力医療機関体制は機能していません。協力医療機関での診療を受けても症状の改善は見られず、それどころか差別的な対応をされる例が後を絶たないなどの問題もあり、多くの被害者は受診を断念しています [1]

 

副反応に対する被害救済給付も十分になされていません。国が副反応の因果関係を明確に認めていない中で、請求しても不支給とされるケースが多くあります [2]。また、給付が認められた被害者も、その多くは一部の期間の医療費・医療手当だけであり、重篤な健康被害に対する補償としてきわめて不十分です。

 

副反応は、日常生活や就学に重大な影響を及ぼし、10代の早くに接種した被害者の女性たちは、進学や将来の目標の断念という深刻な被害も受けてきました。時間が経過して社会に出る年齢となった今、副反応は就労の重大な障害にもなっており、就労を含めた生活支援措置が切実に求められています。しかし、厚労省が設置させた都道府県の相談窓口はそのような支援に対応したものではありません。

 

 

 

2 被害再発をもたらす積極的勧奨の再開は許されない

 

 

(1) 最近、幾つかの団体が、HPVワクチンの積極的勧奨の再開を求める意見を出し、あるいは、HPVワクチン接種を積極的に勧める啓発資材を公表しています。

 

  また、厚労省は、積極的勧奨の中止を続けるものの、その中止の記載を削除し、HPVワクチン接種に誘導するような偏った内容の新リーフレットを作成し、情報提供の名の下に、市区町村から接種対象者への個別送付を求めています [3]

 

しかし、それらは、HPVワクチン接種の有無にかかわらず必要となる検診について適切に伝えておらず、間違った内容で若い女性の子宮頸がんのリスクを不当に強調する情報すら認められます [4]。何より、厚労省が、副反応のために積極的勧奨を中止していることを適切に情報提供しないことは大きな問題です。多くの自治体では、国の積極的勧奨の中止に関する情報を独自に補充しており、そのことからも厚労省の対応の問題性が分かります [5]

 

上記の意見や情報提供、厚労省の対応は、今も多くの被害者が苦しんでいることや、接種者数の増大により被害者をまた増やしてしまうことを無視しており、全く認められません。

 

 

(2) この8年間に、副反応症状の病態や因果関係を示す研究が積み重ねられてきました [6]。また、厚労省の審議会も、HPVワクチンの接種による痛みや恐怖が惹起する心身の反応(機能性身体症状)とする不適切な解釈のもとではありますが、一定の限度でHPVワクチン接種との因果関係を認めています。ただ、どのような人に副反応が生じやすいのか、どうすれば副反応を防ぐことができるのか、といったことは分かっていません。

 

こうした中で接種者数が増えれば、被害者も再び増加することは確実です。現に、積極的勧奨が差し控えられている近年にも、HPVワクチンを接種して重い副反応症状に苦しむ被害者が新たに確認されています(別紙3)。

 

治療法は確立しておらず、協力医療機関体制も機能せず、被害救済もきわめて不十分という現状では、新たな副反応被害者も、これまでの被害者と同じように過酷な状況に置かれることになります。そのような事態は決して許されません。

 

 

 

3 喫緊の課題である被害救済や生活支援、治療法の研究促進を

 

  HPVワクチンによって重い副反応症状に苦しむ被害者は、全国各地で多数に及んでおり、訴訟の原告だけでも全国130人に達しています。私たちは、国と企業に対し、法的責任を認めて被害を全面的に回復させ、被害者が将来にわたって安心して暮らせるようにすることと、本件薬害の真相を明らかにして薬害の再発防止策をとることを求めてきました。

 

しかし、積極的勧奨の中止から8年が経過する現在もなお、被害者は過酷な状況に置かれ続けています。厚労省が今行うべきことは、被害者の存在を無視して積極的勧奨を再開し、新たな被害者を生み出すことではありません。現時点での喫緊の課題として、厚労省に対し、要請の趣旨のとおりの対応を直ちにとることを求めます。

 

その上で、法的責任に基づく被害の全面回復と薬害再発防止策をとることを改めて求めます。

 

以 上

 


[1] 2020年に全国の原告に対して行った調査では、回答を得た128人中、過去に一度でも協力医療機関を受診したことがある原告は111人だったが、20191年間のうちに一度でも協力医療機関を受診したことがある原告は23人に過ぎなかった。それも、HPVワクチンの副反応に対して専門的な治療を行っているごく一部の協力医療機関に集中していた。

[2] 長南謙一ら「医薬品副作用被害救済制度におけるHPVワクチンの副作用給付状況について」(医薬品情報学2211-6頁・2020年)では、請求に対する支給率は、医薬品全体では83.8%であるのに対し、HPVワクチンの場合は44.5%に留まっていることが指摘されている。

また、全国の原告への調査でも、障害年金ないし障害児養育年金の請求に対して決定が出された39人中、半数以上の20人は不支給決定であった。

[3] 私たちは、厚労省に対して新リーフレットの撤回を求め、全国の市区町村に対して個別送付しないようにも求めている。また、厚労省が、積極的勧奨の中止が容易に分からないようにホームページを変更したことも不当として是正を求めている。

https://www.hpv-yakugai.net/statement/(以上、弁護団HP声明・意見書のページ)

[4] 東京小児科医会・東京産婦人科医会・東京都医師会のリーフレットでは「毎年約3000人の若い女性が命を失っています」と、全年齢の人数を使って若年女性のリスクを強調するという明白に事実に反する記載があった。本年25日、薬害オンブズパースン会議が回収と訂正を求める書面を送付したのに対し、上記3団体から誤りを認める回答が送付された。https://www.yakugai.gr.jp/topics/topic.php?id=1009

同様に、日本小児科医会のポスターでも「日本で毎年約10000人の若い女性が子宮頚がんを発症し、毎年約3000人が尊い命を落しています」と明白に事実に反する記載がなされている。本年426日、薬害オンブズパースン会議は回収と訂正を求める書面を送付した。https://www.yakugai.gr.jp/topics/topic.php?id=1012

なお、近年若い女性に子宮頸がん(浸潤がん)は増加しているといった情報は、統計データから見て誤りである。浸潤がんではない上皮内がんまで含めると一部年代で増加傾向は見られるが、真の増加ではなく、統計取扱いの変更や、検診の環境整備で早期発見が進んだことの現れである。以上について、当弁護団のホームページで情報提供している。

https://www.hpv-yakugai.net/2021/04/16/appendix/

[5] 厚労省が積極的勧奨の中止を適切に伝えない問題に関連して、20215月に弁護団が、主な自治体(政令指定都市・道府県庁所在市・東京23区)のホームページを調査したところ、74自治体中68自治体(91.9%)で、国が積極的勧奨を中止している旨が明記されていた。https://www.hpv-yakugai.net/2021/06/09/jichitai-hp/

[6] 2021122日当弁護団作成「HPVワクチンファクトシート作成に関する意見書」

https://www.hpv-yakugai.net/app/download/8054396754/210122-02%20factsheet-opinion.pdf?t=1622256046

 

 



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