「おはよう日本」の特集「子宮頸がんワクチン 重すぎる当事者の判断」に対する見解書をNHKに送付しました

 2021年7月12日、HPVワクチン薬害全国原告団・弁護団は、本年6月22日にNHKの「おはよう日本」でHPVワクチンを特集した内容についての見解書を、NHK会長宛に送付しました。

 内容は次の3点をNHKに伝えるものとなっています。

  1. 軽度異形成の進展率を説明しないまま子宮頸がんになるおそれを強調することは不適切であること
  2. 大阪大学の研究グループの試算はありえない仮定を積み上げたものであり、この試算に基づいて子宮頸がんの将来の死亡数を提示したことは不適切であること
  3. 被害者を直接取材した結果が報道されることが望まれること

 詳細は以下をご覧下さい。


 

2021(令和3)年7月12日

 

日本放送協会

会長 前田 晃伸 殿

 

2021622日「おはよう日本」

特集「子宮頸がんワクチン 重すぎる当事者の判断」について

 

HPVワクチン薬害訴訟全国原告団

 代表  酒井 七海

HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団

共同代表  水口真寿美

   山西 美明

<連絡先> 東京都千代田区二番町12番地13 セブネスビル3階

樫の木総合法律事務所内   電話03(6268)9550

https://www.hpv-yakugai.net/

 

 2021年6月22日の「おはよう日本」における標記の特集(科学文化部池端玲佳記者担当)を視聴し、その報道内容の主な問題点をお伝えします。

 

 1 軽度異形成の進展率を説明しないまま子宮頸がんになるおそれを強調することは不適切であること

 

   同特集の前半では、自治体の子宮頸がん検診で軽度異形成に相当する所見を指摘された21歳の女性が、子宮頸がんワクチンを接種しておけばよかったと後悔していることを報じています。

   具体的には、この女性が医師から検診結果の説明を受ける場面を動画で紹介しながら「HPVとよばれるウイルスに感染している可能性が高く、将来子宮頸がんになるおそれがあると指摘されました」とのナレーションを入れています。

   しかし軽度異形成(CIN1)は自然治癒することが多く、「若い女性に発症したCIN1の90%が3年以内に消失する」という知見は2021年1月31日に国立感染症研究所が作成したファクトシートにおいても明記されています[1]。さらに同ファクトシートでは、大部分が自然消退するCIN1は治療対象とされずに経過観察となることが通常である旨も説明されています[2]

   そうであるのに同特集では、上記ナレーションの際に「子宮頸がんになるおそれ」という文字が表示された際、その横に「※軽度異形成は自然に治癒することもあります」という注意書きが数秒間画面上に併記されましたが、この部分がナレーションで読み上げられることはありませんでした。視聴者がこの画面上の注意書きに目を向けたとしても、自然消退が例外的な事象であると理解するはずであり、90%が自然治癒していると理解することは到底困難です。

   このように軽度異形成の大部分が自然消退するという客観的な事実を伝えることなく、子宮頸がんになるおそれを音声と画面表示で強調しつつ、「自然に治癒することもあります」という不正確とも言える注記をわずかな時間だけ画面上に表示するという同特集の報道姿勢は、視聴者に正しい情報を伝えるものとは言えず、かえって子宮頸がんに対する誤った理解をもたらすものです。

   適切に検診を受診することで軽度異形成の段階で発見に至れば、以後は定期的な経過観察を行うこととなります。そしてその間に多くの患者は、子宮頸がんへの進展には至らないままの経過を辿ることとなります。また、確率は低いながらもCIN2、さらにはCIN3へと進展することがあったとしても、妊孕性を維持しながら適時に治療することが十分に期待できます。

   同特集では、こうした情報が全く視聴者に伝えられないまま、取材に応じた女性が子宮頸がんになるおそれがことさらに強調されており、疾病に対する視聴者の恐怖をむやみにあおる内容となっている点で、著しく不適切です。

 

 2 大阪大学の研究グループの試算はありえない仮定を積み上げたものであり、この試算に基づいて子宮頸がんの将来の死亡数を提示したことは不適切であること

 

   同特集では、大阪大学の研究グループが、HPVワクチンの接種率が70%であれば、現在16歳~21歳の女性が将来子宮頸がん患者になる数が約2万2000人減少し、同死亡者数も約5500人減少すると試算したことを紹介しています。

   この試算は、画面に提示された資料の文献引用表示から、八木らの論文[3]に基づくものと理解されましたが、この論文で示された試算は、根拠に基づかない仮定[4]を数多く重ねたものに過ぎないと批判されています。

   このような強い批判が昨年12月にはオンライン上で公開されているにも関わらず[5]、貴協会が独自に評価・検証しないままこの試算結果を報じることは、客観性・科学性・中立性を欠いており、著しく不適切です。

 

 3 被害者を直接取材した結果が報道されることが望まれること

 

   同特集の後半では、今もHPVワクチン副反応に苦しむ女性の病状が紹介されています。被害者への取材が全くなかった2021年3月4日の報道[6]と比べれば一定の改善が認められます。

    しかしながら、軽度異形成と診断された女性については直接取材を行い、医師との面談の様子などを動画で紹介しているにも関わらず、副反応被害に苦しむ女性についてはメールでの取材に限られていた点が非常に残念です。副反応被害の実情を視聴者に伝える上では、被害者本人を直接取材し、その生の声を紹介することが重要です。これまでも当原告団・弁護団は、被害者である原告らが貴協会の取材に応じることが可能であることを伝え、被害者の面談による取材を要請してきたところですので、そうした機会を活用いただけなかったことは極めて遺憾です。

   当弁護団・原告団は、貴協会が、被害者の姿と声が多くの視聴者に届く形で報道を行うことを強く希望するとともに、その取材に協力する用意があることをあらためてお伝えします。

 

以上

 


[1] 国立感染症研究所.9価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンファクトシート(2021131日)p.8 https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000770615.pdf

[2] 前記ファクトシートp.10-11

[3] Yagi, A., Ueda, Y., Nakagawa, S. et al. Potential for cervical cancer incidence and death resulting from Japan’s current policy of prolonged suspension of its governmental recommendation of the HPV vaccine. Sci Rep 10, 15945 (2020). https://doi.org/10.1038/s41598-020-73106-z

[4] HPVワクチンを接種すればその対象とされる型のHPVに起因する子宮頸がんを完全に予防することができ、その予防効果は生涯にわたって続く一方で、子宮頸がんの受診率は今後も低いままであり、子宮頸がん患者の治療成績(致死率)も向上しない等が前提とされているが、いずれも根拠を欠いている。

[5] HPVワクチン『勧奨中止で死亡4000人増』のからくり-非現実的な仮定による水増し推計https://yakugai.hatenablog.jp/entry/2020/12/07/181055

[6] 当原告団・弁護団:202134日「おはよう日本」特集「HPVワクチンはいま」について https://www.hpv-yakugai.net/2021/03/04/nhk/

 


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2021年6月22日「おはよう日本」 特集「子宮頸がんワクチン 重すぎる当事者の判断」について
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